2018年9月29日土曜日

リーバイス ーアーキュエイトステッチの変遷ー(その2)

 前回は、BIG E期までのアーキュエイトステッチの変遷を見ていきました。戦前の一本針のミシンで縫われたものと戦後に入り2本針のミシンで縫われたものとで異なるのはもちろん、2本針のミシンで縫われたものでも意外と変化が大きいことが分かりました。

 今回は、前回の続きとして66モデル以降の変遷を見ていきたいと思います。

7 1970年代半ば(66 前期モデル)

  1976年4月製の66前期モデルのバックポケットです。BIG Eでは、個体差があるものの、左右の弧が非対称であることが特徴だったのですが、66前期モデルでは左右の弧の幅や角度は対称に近くになっています。弧の深さはBIG Eに比べれば若干浅いという程度です。
 アーキュエイトステッチの色はオレンジ。ステッチのピッチ幅は2mm程度です。

8 1970年代終わり(66 後期モデル)

次は、66後期モデルで1978年2月製のもののバックポケットです。前の66前期モデルとは製造年で2年しか違いませんが、アーキュエイトステッチはずいぶんと角度が浅いものになっています。また、66前期と比べると若干ですが左右の弧のバラつきが目立っています。
 BIG Eや66前期と同じく、アーキュエイトステッチの色はオレンジで、ステッチのピッチ幅は2mm程度です。

9 1980年代はじめ (赤耳モデル)

赤耳モデル(1981年4月製)のバックポケットです。66後期モデルよりもアーキュエイトステッチは深くなり、66前期モデルのもののように戻っています。左右の弧のバランスは若干いびつになっています。
 ただ、個体差や縫製工場の違いの問題なのか、浅いアーキュエイトステッチのものも多く見るように思います。私が持っているもう一本の赤耳では、前の66後期モデルのような浅いアーキュエイトステッチになっています。写真のようなやや深めのアーキュエイトステッチは赤耳モデル固有のものとは考えにくいでしょう。
 アーキュエイトステッチの色はオレンジで、ステッチのピッチ幅は2mm程度という点は変わりません。

10 1980年代半ば (ハチマルモデル)


  写真は、1984年3月製の501のバックポケットです。アーキュエイトステッチは深めで前の赤耳モデルのものと似ているように見えますが、左右の弧のばらつきが更に大きくなっています。
 赤耳モデルと同じように個体差ないし縫製工場の差のせいか、ハチマルモデルでも浅いアーキュエイトステッチのものは多く見られ、1982年2月製のもの1982年11月製のものでは写真のものとはかなり印象が異なるものになります。
 アーキュエイトステッチの色やピッチ幅はこれまでと変わりません。

11 2000年代はじめ

 
2001年6月製のアメリカの自社工場製の最終期に当たるもののバックポケットです。アーキュエイトステッチの深さは、これまでと同じくやや深めですが、左右の弧の角度や幅がより均等なものになっています。
 アーキュエイトステッチはオレンジステッチ、ピッチ幅も約2mmとこれまでのものと変わりません。

12 2000年代終わり(日本企画08501)

2008年のリニューアルにより誕生した日本企画の501、08501のバックポケットです。
 ご覧のとおり、アーキュエイトステッチは、過去のヴィンテージリーバイスよりも角度があり、これまでで一番深いといえるものになっています。左右の幅は、測ったようにほぼ均等になっています。
 また、アーキュエイトステッチの色は、これまでのオレンジからイエローに変更されています。 この辺りは、ヴィンテージを意識したものと思われます。ピッチ幅は、これまでと変わりません。

13 2010年代半ば(日本企画501-1484)


2013年のリニューアルにより誕生した日本企画の501、501-1484のバックポケットです。
 2008年でかなり深くなったアーキュエイトステッチの角度は浅くなり、見慣れた感じのものに戻っています。左右の幅もきれいに均等になっています
 アーキュエイトステッチの色は、2008年モデルと同じイエロー。バックポケット以外にもトップボタン横のV字ステッチやバックポケット裏のシングルステッチなどヴィンテージを意識したディテールが取り入れられています。ピッチ幅は、これまでと変わりません。



 以上、前回から、リーバイスのアーキュエイトステッチの変遷を見ていったのですが、ヴィンテージ期にも、レギュラーや現行の時期にも、相当な変化があったことが分かります。特にヴィンテージ期のものは同じ時代でも個体差も大きいのですが、大体の傾向を知れば、ヴィンテージの製造時期の判別の一助になると思われます。また、現行のものの変遷からは、リーバイス(ジャパン)が501にどのような味付けをしていたのかを窺い知ることができるように思われます。

2018年9月22日土曜日

リーバイス ーアーキュエイトステッチの変遷ー(その1)

 リーバイスのジーンズのシンボルともいえるのがアーキュエイトステッチ。"arcuate"は、「弓形の」とか「弧状の」という意味で、ヒップポケットに2つの弧を描く形でステッチが入れられています。元々はヒップポケットの裏に補強布を縫い合わせるものだったそうなのですが、補強が行われなくなった後も、リーバイスのジーンズにアーキュエイトステッチが入れ続けられています。法的にも商標登録されており、リーバイス社のみが製造したジーンズにアーキュエイトステッチを入れることが認められます。
 このアーキュエイトステッチ、弧型のアーチの形は一様ではなく、個体差があるのはもちろんなのですが、時代ごとで大きな傾向を見ることができます。

1 1930年代半ば (1922年モデル)

  1922年モデルのバックポケットですが、ディテールからして1930年代半ば(早くても1930年台はじめ)に製造されたものではないかと推測されるものです。写真のものは、アーキュエイトステッチは摩耗してほぼ消えてしまっているのですが、その跡は確認することができます。
 当時はアーキュエイトステッチも1本針のミシンで縫われていたと言われており、2本線の間隔は均等ではありません。また、この縫い子さんのやり方なのか、上の線と下の線が一気に縫われていたようで、右端が一点になっています。上ないし下から縫って右端に行ったら布を上下逆さにして...と縫われたのでしょう。
 また、アーキュエイトの左右と真ん中の高さがほぼ一緒になっており、左はかなり下の位置から縫いが始まり、大きく上下して真ん中に、また大きく上下して右に...となっており、角度の深い弧が描かれています。左右の弧のバランスはほぼ均等といってよいかと思います。
 ステッチの色はイエローステッチ、ポケット周りもすべてイエローステッチで縫われています。

2 1930年代終わり (1937年モデル)

次は、1937年モデルのバックポケットです。状態がとても悪く、アーキュエイトステッチが消滅している上に右半分は跡も分からなくなっているのですが、一応、取り上げておきます。
 この頃も一本針のミシンで縫われていたとされており、アーキュエイトステッチの真ん中部分で縫い目がクロスしていないとされていますが、残念ながら私の手持ちのものでは分からなくなっています。
  1922年モデルではポケットの下の方から跳ね上がるように描かれていたのですが、1937年モデルでは、左はポケットの真ん中よりやや高めの位置から真ん中に落ちていくような形になっています。また、一本針のミシンで縫われていたにもかかわらず、2本線の間隔が均等に近くなっています。左右の弧のバランスもほぼ均等です。
 1922年モデルと同じく、アーキュエイトステッチも含めてポケットはすべてイエローステッチで縫われています。

3 1950年代はじめ (片面タブ)

  第2次世界大戦期間中のいわゆる大戦モデルではアーキュエイトステッチがペンキステッチ(正確にはペンキではなくスクリーンプリントだったようです)でしたので、戦後に入ってからのモデルを取り上げます。
 上の写真は、戦後に入ってから製造された片面タブ("LEVI'S"の文字が赤タブの片面にしか刺繍されていないモデル)のバックポケット。戦後に入ってからは2本針のミシンにより縫われるようになったため、2本線の間隔は完全に均等になり、アーキュエイトステッチの真ん中ではステッチがクロスするようになります。
 弧の一番高いところと一番低いところのちょうど中間ぐらいのところにステッチの始点があり、やや深めに弧が落ちています。左右の弧の大きさは、ほぼ同じぐらいになっています。
 アーキュエイトステッチはイエロー、ポケット周りはオレンジステッチで、アーキュエイトステッチのピッチ幅は、3mm程度になっています。

4 1950年代後半 (ギャラ入紙パッチ)

  次は、紙パッチに移行直後の"Every Garment Guaranteed"の文字が入ったギャラ入紙パッチ期のもののバックポケット。片面タブモデルのものと比べると、アーキュエイトステッチの弧がやや浅くなっています。これまではステッチの始点から跳ね上がるように伸びていたのですが、このモデルでは左は横に平行気味にステッチが伸び、右は真ん中からやや高めにステッチが上がっていきます。左右の弧の幅はほぼ同じですが、角度は左右で異なるものになっています。
 写真では分かりにくいのですが、片面タブと同じく、アーキュエイトステッチの色はイエロー、ポケット周りのステッチはオレンジ。ピッチ幅は3.5mm程度ですが、縮み前のものなので、実際には片面タブと同じ幅だったと考えられるのではないかと思われます。

5 1960年代はじめ (ギャラ無紙パッチ)


  紙パッチから"Every Garment Guaranteed"の文字が無くなったいわゆるギャラ無紙パッチ期のもののバックポケットで、1960年台はじめ頃(遅くとも1960年代半ば)に製造されたものと推測されます。アーキュエイトステッチの深さや左右のバランスは、ギャラ入紙パッチ期のものとほとんど同じと言えるほど似ています。また、ステッチの色使いやピッチ幅も同じです。

6 1960年代終わり (BIG E)


 品番から"XX"が取れたBIG E期のもので、その中でもトップボタンの横が平行ステッチ・ウエストベルト上がチェーンステッチの1960年代終わりごろのもののバックポケット。持っているものの中でも一番クセの強いものの写真を載せています。
 XX期はアーキュエイトステッチの深さには違いがあるものの、左右の弧は対称のものが多かったのですが、BIG E期は左右の弧の幅や大きさが大きく異なる非対称のものが多いように思われます。
 この時期のBIG Eのものは、アーキュエイトステッチの色は写真のもののようにオレンジのものがほとんどでしょう。また、アーキュエイトステッチのピッチ幅は約2mmで、XX期と比べるとかなり細かなステッチになっています。

 長くなってしまったので今回はここまでとして、66モデル以降のものは次回に取り上げていきたいと思います。

 


2018年9月15日土曜日

リーバイス ーヴィンテージから現在のものまでの色の変遷ー(その3)

 今回は前回に引き続いてオールド・レギュラーと呼ばれる赤耳モデル以降のリーバイス501の生地の色について見ていきます。
革パッチ期からの11本のリーバイス501
条件を同じにするためスキャナで撮った生地の画像

5 赤耳

左が革パッチの504ZXX、右が赤耳
本来なら66前期モデルの次は66後期モデルを取り上げたいのですが、66後期は水通しをしたと思われるものしか持っていないため飛ばして、赤耳モデルを見ていきたいと思います。
 赤耳モデルでは、xxやBIG Eで見られた色の深みも無くなっています。また、かなり色がくすんだようになり66モデルで見られた青の鮮やかさがほとんど感じられなくなります。また、全体的に毛羽立ちがやや強くなっていることにより、色が褪せた印象が更に増したように思います。
 1970年台以降、アメリカの繊維産業は当時台頭してきた日本製の繊維製品などの輸入拡大により厳しい競争を強いられるようになり、生産コスト削減や一層の効率化を求められるようになります。こうした中で、1970年台終わりから1980年台初めあたりの時期にコーンミルズ社でもデニム生地で使用する糸をリング糸からよりコストの安い空紡糸に変更しており、赤耳モデル以降、生地の毛羽立ちが特に目立つようになってきます。硫化染料の使用とともに、リング糸変更も色の変化に影響を与えたと言えるでしょう。

6 80's・90'S

左が革パッチの504ZXX、右が1980年代製
左が革パッチの504ZXX、右が1990年代製
  1980年代製・1990年代製のものを見比べると、ほとんど生地に違いがみられません。
 XXやBIG Eなどと比べるとあまり色の深みは感じられません。また、赤耳モデルと比べるとやや青っぽくなっています。また、毛羽立ちが赤耳モデルよりも更に強くなり、全体的に白い層に包まれているような印象です。
 この頃のジーンズの対を成すものとしてヴィンテージデニムブームが起きましたが、色や色落ちとして見た場合には改めて対極にあるものだと思います。その後、世の中のジーンズが多かれ少なかれヴィンテージ調のもので占められるようになってから、1980~90年代のジーンズのリバイバルが起きているのは、ファッションの面白さを顕著に表しているように思われます。

7 00501-01


左が革パッチの504ZXX、右が00501-01


 00501-01は、2003年のリーバイスのアメリカ国内工場の廃止以後に登場した日本企画のモデル。生地はXX17と呼ばれるもので、「1917年当時の糸の作り方・織り方を最新の技術で忠実に再現した」と謳われています。ヴィンテージブームが広がりを見せた結果、1990年代終わりごろから、501の生地もそれまでの空紡糸の使ったものからリング糸を使ったものに回帰しており、以後、日本企画のレギュラー501向けにコーンミルズ社からヴィンテージ調の生地がリリースされますが、XX17はその口火を切ったものです。
 生地の色ですが、XXやBIG Eなどのヴィンテージのものとは異なり、特に強い深みは感じられず、青を重ねたというよりも、黒又はグレーに見えて青みがあまり感じられません。また、生地が徹底的に毛焼きされているのかほとんど毛羽立ちが感じられず、色の面でもあっさりとした印象を受けます。ちなみに、色落ちをさせたものも見たことがあるのですが、未洗いでの印象と大きく異なり表情豊かな生地に見えました。

8 501-1995


左が革パッチの504ZXX、右が501-1995
501-1995は、コーンデニム社のホワイトオーク工場で製造された生地を用いて、アメリカ国内の委託工場で製造された"MADE IN U.S.A."を売りにしたモデルで、アメリカで発売されていたモデルです。
 00501-01ではあまり青みが感じられないと書きましたが、501-1995は、ヴィンテージ期のような深いインディゴの色になっています。上の写真にある革パッチの501の色と比べるとやや青みが強くなっています。


9 501-2546

左が革パッチの504ZXX、右が501-2546
501-2546も501-1995と同じくコーンデニム・ホワイトオーク工場製の生地を用いた"MADE IN U.S.A."のモデルです。こちらは日本でも発売され、比較的大きく展開されているように思われます。
 501-2546は、501-1995と同様にインディゴの色の深さが感じられますが、501-1995よりも更に青みが強くなっています。他のものとの比較でいえば、66前期の色に近く、それをもう少し深くしたような色味です。
 501-1995と501-2546は、未洗いの状態では、スラブ感などはさほど強くないのですが、ヴィンテージジーンズが好きな私でも穿き込んでみたいと思わせられる生地感になっています。


 以上、3回に分けて、未洗いの状態でのデニム生地の色を見比べていきましたが、ヴィンテージとよばれる時代のものには、さほど大きな差が見られなかった反面、1980年代から90年台までにかけてのものは、染料の変化や生地に用いる糸の変化により、未洗い時でも大きく色が変わっていくことを確認することができました。また、ここでとりあげた最近になってからの501は、ヴィンテージらしさを意識したような色合いに戻っているように思われます(縫製の細かな仕様もヴィンテージ時代のものに戻されたりしています)。
 未洗いの状態を見るだけで、そのデニム色や色落ちを語るのは極めて難しいことは承知で見比べてみたのですが、実際に、横に並べてみてみるとその時代のデニムの色の特徴は、未洗いの状態でも垣間見ることができたように思えます。今度は、リーやラングラーなども見ていきたいと思います。

2018年9月8日土曜日

リーバイス ーヴィンテージから現在のものまでの色の変遷ー(その2)

 前回は、革パッチ期からごく最近のものまでの11本のリーバイスの生地の色の変遷をざっくりと見ていきましたが、今回からは2回に分けて、革パッチ期のものを基準としながら11本をもう少し丁寧に見ていきたいと思います。
革パッチ期からの11本のリーバイス501
条件を同じにするためスキャナで撮った生地の画像
色落ちという点では、革パッチ期のXXからBIG E期まででは色落ちの傾向はかなり異なりますが、デッドストックの状態で見る色については、前回も書いたとおりあまり大きな違いは見られませんでした。もちろん若干の差はあるのですが、これが生地の色の全体的な傾向として言えることなのか、個体差の問題に留まるのかは分かりません。

1 革パッチ期のXXとギャラ入紙パッチ期のXX

左が革パッチの504ZXX、右がギャラ入紙パッチの504ZXX

 一般的には革パッチのものの方が古いとされているのですが、フラッシャーやギャランティーチケットはギャラ入り紙パッチに付いているものの方が古いため、実は、この2本のうちどらちが先に製造されたのか判然としないところがあります。
 この2本で比較すると、革パッチの方は黒みががっているように見えるほどインディゴの深みが強くなっていますが、これと比べてギャラ入紙パッチの方はほんの少し色の深さが弱く青みが強くなったように感じられます。また、経年変化の違いの可能性が高いですが、ギャラ入紙パッチの方はほんの少し色が褪せて色のコントラストが弱くなっているように見えます。

2 ギャラ無紙パッチ期のXX

左が革パッチの504ZXX、右がギャラ無紙パッチの503BXX

 ギャラ無紙パッチのものは、革パッチのものと比べると、やや青みが強くなるとともに、赤みが出ているのかやや紫に寄った青さになっています。また、色のコントラストが強く、深さがありながらも鮮やさを感じます。色の深さだけで見るならばギャラ入紙パッチのものよりも色が深く、革パッチのものに近いように見えます。

3 BIG E

左が革パッチの504ZXX、右がBIG E
今回比較に用いたのは、BIG Eの中でもタイプもの(パッチの"501"の上に"A","S"などのアルファベットの表記がある)と呼ばれているものです。ヴィンテージデニムの市場ではXXとBIG Eでは価値が大きく異なり、特にギャラ入りまでのXXとBIG Eを比べると実際の色落ちの傾向も異なると言われますが、デッドストックでの色味に限って言えはあまり変わらないように見えます。
 あえて言うならば、革パッチのXXの方が色が深く鮮やかで、BIG Eはやや乾いた色合いなのですが、やはり個体差の問題とも考えられる程度の違いです。もう少し違いが出るのではないかと予想していたので、正直に言って意外な結果でした。

4 66前期

左が革パッチの504ZXX、右が66前期
66前期は、これまでとりあげてきたものとガラリと印象が変わります。上の写真でもはっきりと分かりますが、これまでの深いインディゴではなく、鮮やかな青という印象です。なお、ここで紹介する66前期は、1976年4月製のものです。
 硫化染料による下染めが導入された明確な時期について明確には分かりませんが、リーバイスの復刻版(LEVI'S VINTAGE CLOTHING(LVC))の501の1976年モデル、1978年モデル(本稿執筆時点で既に廃番)に付いている製品紹介の手紙風パンフレットにはいずれも"
The fabric was a bright shade of sulfur-dyed indigo"と記載されており、公式には、少なくとも1976年時点で硫化染料で下染めしたデニムが用いられていたという立場をとっているようです(※)。
※ 他方で、2013年春夏に発行されたINVESTORY誌4巻8号掲載のコーンミルズ社の特集記事"CONE MILLS: THE HOME OF AMERICAN DENIM"では、"a 1978 denim -- complete with a sulphur bottom for quicker fading"という記述があります。
 一般に硫化染料を用いたサルファー染は褪せた色合いが特徴なのでここまで鮮やかな青になるのかは分からないのですが、硫化染料による下染が1976年に既に取り入れられており、これにより生地の色の変化がもたらされた可能性もあるのかと思います。


 少し長くなってしまったので今回はここまでとし、次回は赤耳モデル以降の生地を見ていきたいと思います。

2018年9月1日土曜日

リーバイス ーヴィンテージから現在のものまでの色の変遷ー(その1)

ヴィンテージデニムの生地の魅力について語られるとき、縦落ちや粒落ちといった色落ちが言われることが多いですが、色そのものの魅力が語られることも多いように思われます。
 デニム生地は、石油製品である合成インディゴにより染色されますが、1970年代には、石油ショックにより合成インディコの供給を確保することが厳しくなる一方で、ジーンズをはじめとするデニム衣類の需要は増加の一途をたどり合成インディゴの需要は増加。合成インディゴの供給減、需要増という、デニムの生産者にとって厳しい状況となりました。こうした状況の中、リーバイスへの生地の供給元であったコーンミルズ社でも、1970年代に、コストが安価な硫化染料であらかじめ経糸を染めて合成インディコの使用量の低減を図る「下染め」が行われるようになり、これによって、ヴィンテージデニムの愛好家からは、色の深みや鮮やかな青みがなくなったなどと言われるようになります。
 そもそも色は好みによる部分も大きく、まして色や色落ちでヴィンテージデニムと対をなすと言える1980年代や90年代のデニムが人気になっています。コストダウンが理由とはいえ上記の変化の先後で品質が良くなった・悪くなったとは一概には言えませんが、ここでは、品質の高低という問題は抜きにして、デッドストックのリーバイスを基にその色の変遷を見ていきたいと思います。

 今回検証に用いるのは、次の未洗いの状態のリーバイスのジーンズ11本です。同じ条件での比較をすることが困難なため、ここではデッドストックのみに絞ります。ただ、未洗い時の色が同じであっても、色落ちをさせるとデニムの色は大きく変わります(例えば、ヴィンテージレプリカでは、未洗い時の色はヴィンテージを再現できているものも多いものの、色落ち後の色を再現できているものはほとんどないと感じる方も多いと思います。)。
 また、ヴィンテージジーンズでも、例えばリーバイスとラングラーでは大きく色合いが異なりますが、あまりに比較対象を広げると収拾がつかなくなるので、ここでは非防縮生地を用いたリーバイスのジーンズに絞っています。なお、デッドストックといえども経年変化により糊や生地の酸化の具合などが異なると考えられ、そうした要素が色合いの検証に大きな影響を与えうる可能性があることは付言しておく必要があるかと思います。
1 LEVI'S 504ZXX (革パッチ)
2 LEVI'S 504ZXX (ギャラ入紙パッチ)
3 LEVI'S 503BXX (ギャラ無紙パッチ)
4 LEVI'S 501 (BIG E)
5 Levi's 501 (66前期)
6 Levi's 501 (赤耳)
7 Levi's 501 (80's (1982年11月製))
8 Levi's 501 (90's (1996年11月製))
9 Levi's 501 (00501-01 (2005年7月製)
10 Levi's 501 (501-1995 (2016年製(推定)))
11 Levi's 501 (501-2546 (2017年製(推定)))
 なお、1から11まではおおよそ製造時期の順に並べていますが、1と2については製造時期の先後が判然としないところがあります。
左から右に行くに従い、新しくなっていく

生地のアップ。条件を同じにするためスキャナで画像を撮った。

 全体的にいうと、1の革パッチから4のBIG Eまではよく言われる「深いインディゴの色合い」を見ることができます。色落ちが進むと青の鮮やかさや赤みの強さは異なってきますので、デッドストックの状態でももう少し差があるのではないかと予想していたのですが、5以降の生地との差と比べると大きくは変わらないといった印象です。
  5の66前期は鮮やかな青みが非常に特徴的で、BIG Eまでのものとは大きく異なります。上の画像でもとても分かりやすく出ていると思います。1970年代から90年代までは、最初に述べた硫化染料による下染めが採用されていた時期のものになりますが、確かによく言われるように色の深みが落ちています。
 9以降は、ヴィンテージやオールドではなくレギュラーと呼ばれる年代のものになりますが、この頃になると、空紡糸ではなく再びリング糸が用いられるようになっています。最近製造された10の501-1995や11の501-2546は、コーンデニム社のホワイトオーク工場製の生地を使用していることを売りの一つにしていますが、未洗い時の色は1~4のXX期やBIG E期の色に近いものになっています。

 以上、ざっと見ていったのですが、これまで横並びで比較をしたことがなかったので、 改めて時代ごとのデニムの色の特徴の一端を垣間見ることができたように思われます。次回は、1の革パッチのジーンズを基準としながら、それぞれの生地についてもう少し丁寧に見ていきます。