そこで、今回は、生地の厚さから検証を行っていきたいと思います。生地のオンスは、1平方ヤード辺りの"重さ"ですので必ずしも厚さに比例するものでないことは前置きしておきます。
3 厚さの計測
生地の厚さといっても、実際にはごく薄いものですので、普通に定規で測れるものではありません。そこで、今回は「デジタルノギス」なるものを使って計測していきます。これを用いると、薄いものでも0.01mm単位まで計測することができるため、薄い生地の厚さも測ることができます。デジタルノギス |
普通のノギスと同じように先端で挟んで計測します。 |
計測は、ウエストベルトの5ヶ所(左右前、左右横、真後ろ)を計測し、その平均値をとることにします。ウエストベルトの端は、生地が二つ折りになっているので、実際の生地の厚さは計測値の半分ということになります。なお、ウエストベルトの上端にはステッチがかけられていますが、厚さを測る際には、ステッチ分の厚さまで余分に計測されてしまうのでステッチを避けて縫い穴の上を計測するようにしました。逆に、生地が荒れている部分は、生地が本来の厚さから相当程度摩耗して薄くなってしまっているため計測箇所から外すようにしました。
また、力の入れ具合で計測値がかなり変わってしまうため、一番低い(=薄い)数字が出るまでできるだけ力を入れて計測することにしました。計測値は、指で生地をギュッとつまんだ状態の値と考えていただければよいかと思います。
その他、ノギスと生地との角度によってかなり計測値が変わるため、ノギスと生地が垂直に交わるよう心がけて計測しました。
計測に用いたのは、重さの計測のときと同じく(1)1922年モデル(後期型)、(2)1937年モデル、(3)大戦モデル(1本目)、(4) 大戦モデル(2本目)、(5)片面ダブモデル(初期型)、(6)片面タブモデル(後期型)、(7)ギャラ無紙パッチモデルの7本のボトムズに加え、(8)506XX(1937年1stモデル)、(9)506XX(大戦期1stモデル)、(10)506XX(1947年1stモデル)、(11)507XX(2ndモデル)の4着のジャケットも加えています。ジャケットもウエストベルト部分をジーンズと同様に計測しました。
全部で11着のボトムズ、ジャケットを計測した結果は、以下のとおりです(単位はmm)。なお、前述のように二つ折りの部分を計測したため、実際の生地の厚さは理論上はこの半分ということになります。
--> 結果としては、(3)の大戦モデルが1.076mm、(4)の大戦モデルが1.094mm、(9)の大戦モデルが1.052mmですが、その前後の時代のものでも、1.006~1.132mmの範囲内に収まっています。「大戦モデルにはヘビーオンスの生地が使われている」という説では、大戦モデルには12オンスの生地(大戦期以外は10オンス)が用いられているとされることが多いので、この場合、生地の厚さも20%前後の差が出てもおかしくないと思いますが、実際には、(4)の大戦期とその前の(2)1937年モデルでも2%程度の差しか出ていませんし、ジャケットに至っては大戦期の生地が最も薄いという結果が出ています。生地の摩耗の度合はそれぞれ異なり、また、そもそも100分の1ミリ単位での計測ですので、計測誤差は相当に出ることは前提とする必要がありますが、「大戦モデルにはヘビーオンスの生地が使われている」という説を立証するような結果は、厚さを測っても出てきませんでした。上記の結果を見るに、計測誤差、元々の生地の厚さの微妙な個体差、生地の状態の差といった差が数字に出てきただけのようにも思われます。
4 まとめ
2回にわたって大戦モデルの生地を重さ・厚さという観点から検証して見ましたが、「大戦モデルにはヘビーオンスの生地が使われている」という結論からは遠い結果が出てしまったように思います。ただし、この検証も私の手持ちのジーンズ2本とジャケット1着で行っただけのものであることは留意していただきたいと思います。個人的には、この説に疑念を抱いていたので、ひと通り検証をしてみてスッキリした気分です。そもそもヘビーオンスであれば良いというものではないですし、大戦モデルの魅力は黒みがかかった色味や、味のある(=雑な)縫製、無骨なディテールなどにあると思いますので、この結果にガッカリすることなく、これからも大事に穿いていきたいと思います。