1 はじめに
リーバイス501の生地のオンス数(重さ≒厚さ)については、1930年代前の"FOR OVER 50 YEARS"のギャランティーチケットまでは9オンス、1930年以後の"FOR OVER 60 YEARS"のギャランティーチケットからは10オンスと、それぞれギャランティーチケットに明記されており、片面タブ期の"FOR OVER 80 YEARS"のギャランティーチケットまでは10オンスの記載が続きました。その後の"FOR OVER 85 YEARS"のギャランティーチケットからは10オンスの記載がなくなりましたが、しばらくの間は生地のオンス数に変更はなく10オンスの生地が用いられ、後にオンス数の引上げが行われた、というのが一般的な理解ではないかと思われます。例えば、1960年代前半のものと思われるプリシュランクの生地のLEVI'S 554ZXXでは、フラッシャーに14オンスと明記されています。仮にこれが縮む生地で、縮率が10%とすると縮み前のオンスは11.34オンスと計算され、生地のオンス数は10オンスから引き上げられていることになります。
ただ、「いつごろから」「どの程度まで」生地が重くなった・厚くなったということは、はっきりと語られることは少ないように思います。
そこで、今回は、同じサイズのデッドストックを計測・比較して、リーバイス501の生地のオンスがいつ頃から変化しているのか、調べていきたいと思います。
2 対象とするジーンズ
今回は、ウエスト27インチ・レングス34インチのもの6本と、ウエスト27インチ・レングス32インチのもの6本の計12本の重さと厚さを計測します。具体的には、以下のとおりで、古いと考えられるものから並べています。番号の後に★が付いているものはレングス34インチ、☆が付いているものはレングス32インチです。おおよそ1950年代前中期から1980年代前半までの30年間の生地を比較することになります。一部フラッシャーやギャランティーチケットが欠品しているものがありますが、微小な差かと思われるため、ここではその差は無視することにします。
レングス34インチの6本 |
レングス32インチの6本 |
レングス34インチ・32インチの各6本をそれぞれ並べてみましたが、レングスのサイズの個体差は、さほど感じられないのがお分かりいただけると思います。
3 重さの計測
それでは、実際に12本のジーンズの重さを計測していきます。まず、レングス34インチのもの(上掲の★印)の6本から。
(1) 革パッチの504ZXX 704g |
(2) 革パッチの504ZXX 671g |
(3) ギャラ入り紙パッチの504ZXX 677g |
(10) 501 66後期 655g |
(11) 501 クロカン 658g |
(12) 501 クロカン 666g |
次に、レングス32インチのもの(上掲の☆印)の6本を。
(4) ギャラ入り紙パッチの504ZXX 652g |
(5) ギャラ無し紙パッチの503BXX 632g |
(6) 501 BIG E ウエストシングル 619g |
(7) 501 BIG E ウエストチェーン 649g |
(8) 501 BIG E ウエストチェーン 635g |
27/34 | 27/32 | |
---|---|---|
(1) 革パッチの504ZXX | 704g | |
(2) 革パッチの504ZXX | 671g | |
(3) ギャラ入り紙パッチの504ZXX | 677g | |
(4) ギャラ入り紙パッチの504ZXX | 652g | |
(5) ギャラ無し紙パッチの503BXX | 632g | |
(6) 501 BIG E ウエストシングル | 619g | |
(7) 501 BIG E ウエストチェーン | 649g | |
(8) 501 BIG E ウエストチェーン | 635g | |
(9) 501 66前期 | 636g | |
(10) 501 66後期 | 655g | |
(11) 501 クロカン | 658g | |
(12) 501 クロカン | 666g |
レングス34のものと32のものは、同じ尺度で比較したいところです。そこで、同じギャラ入り紙パッチの504ZXXである(3)と(4)は同じ時代の生地が用いられていると仮定してこれらを100とし、レングス34インチのものは(3)と、レングス32のものは(4)と対比して数値化してみます。その結果は、次のようになります。
(1) 革パッチの504ZXX 104.0
(3) ギャラ入り紙パッチの504ZXX 100
(4) ギャラ入り紙パッチの504ZXX 100
以上を見てみると、重さについては、生地のオンス数が上がり重くなったという傾向は見られません。むしろ、全体としては、古い時代のものの方がやや重い傾向にあります。これは、古いものの方が太めのシルエットであるため使用している生地が多いと理解が適当かと思います。
4 厚さの計測
次に厚さの計測をしていきます。計測は、以前に大戦モデルの厚さを計測したときと同様に、電子ノギスを使用してウエストベルトの5ヶ所(左右前、左右横、真後ろ)を計測し、その平均値をとることにします。
(4) ギャラ入り紙パッチの504ZXX 0.99 0.96 0.94 1.00 1.01 0.98
平均値を見ると、最大で0.916~1.05、約10%の差が見られますが、年代が進むに連れて厚くなるのではなく、(9)の66前期以降は1mmを超えるものがなくなるなど、むしろ薄くなっていく傾向が見られます。年代が進むに連れて、糸や織りのムラが小さくなったことが影響しているのかもしれません。
5 まとめ
重さと厚さの両面から検証していきましたが、1950年代前中期から1980年代前半までの30年間では、XXからBIG Eの移行期も、リング糸から空紡糸に変わった時期も、革新織機に変わり生地の耳がなくなった時期も、少なくとも生地の重さ・厚さに関する仕様は変わっていないと考えられます(年代が立つに連れ、重さも厚さも数字が小さくなるのは、前述のとおり、製品のシルエットの変更や生地の均質化が影響していると思われます。)。
以前ブロクでとりあげた大戦モデルの生地の比較については、元々、世間で言われる「大戦モデル=ヘビーオンス」という見方に否定的でしたので、予想どおりの(あるいは予想以上の)結果が出たという感想でした。しかし、今回は、前述のとおりプリシュランク生地の製品のフラッシャーに"14oz"と明記されていることもあり、501の生地も1960年代辺りから変化が出てくるだろうと予想していたので、今回の結果は個人的には意外でした。
今回の結果との整合的に理解しようとすると、そもそもオンス数の表記がいい加減なものだったか、オンスという単位そのものに何らかの変更があったとしか考えられないのですが、どちらもそれを証明するような証拠を見つけているわけではありません。
ただ、いずれにしろ生地自体の重さ・厚さは変わっていなことは間違いありません。XXの生地は薄くてペラペラしているといったことが言われることもありますが、数字で見る限りはそんな事は言えず、最初に述べたような一般的な理解からくるバイアスがかかったものと言えるでしょう。何事にも検証が必要ということを改めて実感しました。
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