前回、とはいってももはや2年近く前の記事ですが、ユースドの大戦モデルとその先後のモデルについて、重さと生地の厚さを測って、巷でよく言われている「大戦モデルにはヘビーオンスの生地が使用されている」という説を検証しました。
結果としては、大戦デニムとその前後のモデルとの間に重さ、厚さに大きな差は見られず、「大戦モデル=ヘビーオンス」という説には疑問が残るという結論に至りました。
ただ、前回の検証は、いずれも相当色落ちが進んだ個体で比較をしたため、それぞれの摩耗度が大きく異なることもあり得ましたので、大きな自信が持てるというものではなかったのは事実です。
幸いなことに、前回の検証の後、かなり色の残った状態で大戦モデルやその先後のモデルを入手することができました。今回は、より新品に近い状態の個体を比較して、「大戦モデル=ヘビーオンス」という説を改めて検証をしてみようと思います。
1 検証するジーンズのサイズと状態
まず、今回の検証で比較するジーンズのサイズと状態を確認しておきたいと思います。今回の検証で用いるのは、
(3)503BXX 片面タブモデル(初期型)
(4)503BXX 片面タブモデルの4本です。
このうち、(3)と(4)は、私のホームページではまだ紹介していませんが、(3)はフロントボタンを縫い付けた生地の下端が切りっぱなしになっており、片面タブの初期型で、その中でもかなり初期のものと思われます。(4)はイエローステッチとオレンジステッチが混在しており、かつ、サイドステッチが長いことから、片面モデルの中期と思われるものです。
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左から、(2)大戦モデル、(1)1937年モデル、(3)片面タブ(初期型)、(4)片面タブ(中期型) |
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下から、(2)大戦モデル、(1)1937年モデル、(3)片面タブ(初期型)、(4)片面タブ(中期型) |
次にそれぞれのサイズを表にまとめてみました。
モデル | ウエスト | レングス |
(1)503XXB 1937年モデル | 70cm | 66cm |
(2)S503XXB 大戦モデル | 72cm | 77cm |
(3)503BXX 片面タブモデル(初期型) ※リペアあり | 67cm | 78cm |
(4)503BXX 片面タブモデル(中期型) | 67cm | 75.5cm |
大きさを見ると、ウエスト・レングスの両方で大戦モデルが大きくなっており、これと比較すると、1937年モデルや2本の片面タブモデルは、ウエスト・レングスのいずれかで大戦モデルに比べて小さくなっています。
なお、比較に際しては、4本のうち(3)には穴を塞ぐリベアが多く入っていることを留意する必要があります。
2 重さの計測
「
501XX大戦モデルにはヘビーオンスの生地が使われているのか?(その1)」でも述べていますが、大戦モデルの前後ではリーバイスは501XXに10オンスの生地を用いられており、他方で、「大戦モデル=ヘビーオンス」という説では大戦モデルには約20%重い12オンスの生地が使われていたと言われます。これが本当であれば、同サイズのジーンズで比較すれば、大戦モデルは約20%重く、厚いということになるはずです。
それでは、それぞれの重さを測っていきましょう。
まずは、大戦モデル。
643グラムでした。
次に1937年モデル。
これは618グラム。
最後に片面タブを2本続けて。
(3)の初期型は636グラム。
(4)の中期型は646グラム。
まとめると次のとおり。大戦モデルを100としたときの他のモデルの比率も記しておきます。
モデル | 重量 | 比率 |
(1)503XXB 1937年モデル | 618g | 96.1 |
(2)S503XXB 大戦モデル | 643g | 100 |
(3)503BXX 片面タブモデル(初期型) | 636g | 98.9 |
(4)503BXX 片面タブモデル(中期型) | 646g | 100 |
レングスが短い1937モデルがやや軽くなっていますが、それ以外はほとんど差がないと言ってよいでしょう。個体差や摩耗度の違いがあること考慮したとしても、到底、新品の状態で20%の重量の差があったとは考えられません。むしろこの結果からは、大戦モデルとその先後のモデルでは、生地の重さ(すなわちオンス数)には差がないと考えた方が自然です。そもそも、一番サイズが大きい大戦モデルが最も重くならなければならないはずですが、そうした結果にはなりませんでした。
2 厚さの計測
大戦モデルの生地は肉厚だと言われることが多いので、今度は厚さを調べてみることにします。
厚さの計測は、前回の「
501XX大戦モデルにはヘビーオンスの生地が使われているのか?(その2)」でも用いたデジタルノギスを用いています。計測方法も前回と同様にウエストベルトの5ヶ所を計測し、その平均値を取ることにしました。
計測結果は、次のとおりとなりました。
モデル | 厚さ |
(1)503XXB 1937年モデル | 1.08mm |
(2)S503XXB 大戦モデル | 1.04mm
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(3)503BXX 片面タブモデル(初期型) | 1.09mm
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(4)503BXX 片面タブモデル(中期型) | 1.17mm |
結果を見ると、大戦モデルとそれ以外で有意な差があるとは考えられません。むしろ、計測の結果は大戦モデルが一番薄かったのですが、これは計測箇所や計測時の力の入れ方でばらつきが出てしまうことの誤差の範囲と考えていただければと思います。
3 検証のまとめ
このように重さと厚さについて、より新品に近い状態のもので検証してみましたが、結果的には、前回の検証と同様に、大戦モデルとその先後のモデルでは重さ(=オンス数)も厚さも有意な差は見られませんでした。今回は、相当に色が濃く残っているジーンズで検証ができましたので、結論として、大戦モデルにヘビーオンスの生地が用いられているわけではないと自信を持って言ってもよいのではないかと思われます。
以上で検証は終わりなのですが、最後に、なぜ「大戦モデル=ヘビーオンス」と言われ続けたのか考えてみたいと思います。
まず、「大戦モデル=ヘビーオンス」と言われるようになった端緒について、青田充弘氏著「501XXは誰が作ったのか?
語られなかったリーバイス・ヒストリー」(立東舎)では、エドクレイ著「リーバイス ー
ブルージーンズの伝説」(草思社)の中の記述にあるのではないかと指摘されています。少し長いですが、その記述を箇所を引用しておきます。なお、青田氏の著書では「大戦モデル=ヘビーオンス」という説に疑問が呈されています。
「一つだけ会社が応じなかった変更があった。それはデニムの重量の引き下げだった。ニューヨーク買付け事務所の所長をしていたオスカー・グローブルは、逆にもっと重いデニムを認めてくれるようワシントンに陳情に行った。生地の重量を引下げることは、綿の節約になるように見えながら、ダブルXズボンの強さを低下させ、そして結局は、基幹産業の労働者達によって、すぐに穿きつぶされてしまうだろう。グローブルの説得は功を奏した。デニムの重さは、十三・五オンスにまで増大した。」(P93)
また、日本のビンテージブームに大きな影響を与えた「BOON VINTAGE Volume.1 リーバイスの歴史が変わる」(祥伝社)でも、この記述が以下のように引き継がれています。
「その一方で政府との確執もあった。簡素化の一環としてデニムのオンスの引き下げを戦時生産局は突き付けたが。これに対しリーバイスは断固拒否。オンスダウンは耐久性を損なうとして、逆にデニムの重さを13.5オンスまで引き上げさせた。結果、より頑丈さを増した501は、さらに皆の求める商品へと進化していった。」(P48)
こうした記述が原因で「大戦モデル=ヘビーオンス」という説が言われるようになったことは間違いないでしょう。そして、その後も、この説が特に検証されることなく、今日まで言われ続けてしまうこととなります。
今回の4本のデニムは片面タブ以前の生地ですので、その後のものに比べて柔らかく感じられます。ただ、大戦モデル以外は柔らかい中にも生地のハリが強く感じられるのに対し、大戦モデルは若干ハリが弱く、表面の感触もフンワリしたものになっています。例えば、糸の撚りが大戦モデルではより甘くなっているといる可能性はあります。こうした質感、特に手触りの違いが人によっては生地が厚いと感じる一因になっている可能性はあるのかと思います。
また、邪推かもしれませんか、「大戦モデル=ヘビーオンス」としておく方が、古着業界やレプリカ業界にとって都合がよかったということは言えるのではないかと思います。ちなみに、本家とも言うべきLVCは、大戦モデルの生地について、黒っぽい色味にするなどの特徴は再現していますが、ヘビーオンスにはしていません。当のリーバイスが著名なエドクレイの著書の記述に従っていないというのは、興味深いところです。
以上、3回にわたって「大戦モデル=ヘビーオンス」説の検証を進めてきましたが、今回の検証によっても否定的な結果が得られました。疑問が解消されスッキリした反面、未だに「大戦モデル=ヘビーオンス」と言われ続けている現状を考えると複雑な気持ちにさせる結果でしたが、それでも自分の中での大戦モデルの魅力や価値が下がったというわけでは決してありません。
ヴィンテージリーバイスのディテールについては、リーバイスにある資料などが掘り尽くされ、かなりの部分が調べ上げられています。しかし、生地については、リーバイス社ではなくコーンミルズ社について調査されないと分からない点がほとんどで、資料が乏しいといった理由から未だに解明されていない点が多いように思われます。現状でも、宣伝や雑誌記事などに見られる情報には眉唾のものも多々あるのは事実です。
デニムについてもインターネットなどを通じて様々な情報が得られるようになっていますが、それらの情報を鵜呑みにすることなく、実際に自分で実物と向き合っていくことが重要なのだ、今回の検証はそんなことを改めて考えさせるものになりました。