2018年9月22日土曜日

リーバイス ーアーキュエイトステッチの変遷ー(その1)

 リーバイスのジーンズのシンボルともいえるのがアーキュエイトステッチ。"arcuate"は、「弓形の」とか「弧状の」という意味で、ヒップポケットに2つの弧を描く形でステッチが入れられています。元々はヒップポケットの裏に補強布を縫い合わせるものだったそうなのですが、補強が行われなくなった後も、リーバイスのジーンズにアーキュエイトステッチが入れ続けられています。法的にも商標登録されており、リーバイス社のみが製造したジーンズにアーキュエイトステッチを入れることが認められます。
 このアーキュエイトステッチ、弧型のアーチの形は一様ではなく、個体差があるのはもちろんなのですが、時代ごとで大きな傾向を見ることができます。

1 1930年代半ば (1922年モデル)

  1922年モデルのバックポケットですが、ディテールからして1930年代半ば(早くても1930年台はじめ)に製造されたものではないかと推測されるものです。写真のものは、アーキュエイトステッチは摩耗してほぼ消えてしまっているのですが、その跡は確認することができます。
 当時はアーキュエイトステッチも1本針のミシンで縫われていたと言われており、2本線の間隔は均等ではありません。また、この縫い子さんのやり方なのか、上の線と下の線が一気に縫われていたようで、右端が一点になっています。上ないし下から縫って右端に行ったら布を上下逆さにして...と縫われたのでしょう。
 また、アーキュエイトの左右と真ん中の高さがほぼ一緒になっており、左はかなり下の位置から縫いが始まり、大きく上下して真ん中に、また大きく上下して右に...となっており、角度の深い弧が描かれています。左右の弧のバランスはほぼ均等といってよいかと思います。
 ステッチの色はイエローステッチ、ポケット周りもすべてイエローステッチで縫われています。

2 1930年代終わり (1937年モデル)

次は、1937年モデルのバックポケットです。状態がとても悪く、アーキュエイトステッチが消滅している上に右半分は跡も分からなくなっているのですが、一応、取り上げておきます。
 この頃も一本針のミシンで縫われていたとされており、アーキュエイトステッチの真ん中部分で縫い目がクロスしていないとされていますが、残念ながら私の手持ちのものでは分からなくなっています。
  1922年モデルではポケットの下の方から跳ね上がるように描かれていたのですが、1937年モデルでは、左はポケットの真ん中よりやや高めの位置から真ん中に落ちていくような形になっています。また、一本針のミシンで縫われていたにもかかわらず、2本線の間隔が均等に近くなっています。左右の弧のバランスもほぼ均等です。
 1922年モデルと同じく、アーキュエイトステッチも含めてポケットはすべてイエローステッチで縫われています。

3 1950年代はじめ (片面タブ)

  第2次世界大戦期間中のいわゆる大戦モデルではアーキュエイトステッチがペンキステッチ(正確にはペンキではなくスクリーンプリントだったようです)でしたので、戦後に入ってからのモデルを取り上げます。
 上の写真は、戦後に入ってから製造された片面タブ("LEVI'S"の文字が赤タブの片面にしか刺繍されていないモデル)のバックポケット。戦後に入ってからは2本針のミシンにより縫われるようになったため、2本線の間隔は完全に均等になり、アーキュエイトステッチの真ん中ではステッチがクロスするようになります。
 弧の一番高いところと一番低いところのちょうど中間ぐらいのところにステッチの始点があり、やや深めに弧が落ちています。左右の弧の大きさは、ほぼ同じぐらいになっています。
 アーキュエイトステッチはイエロー、ポケット周りはオレンジステッチで、アーキュエイトステッチのピッチ幅は、3mm程度になっています。

4 1950年代後半 (ギャラ入紙パッチ)

  次は、紙パッチに移行直後の"Every Garment Guaranteed"の文字が入ったギャラ入紙パッチ期のもののバックポケット。片面タブモデルのものと比べると、アーキュエイトステッチの弧がやや浅くなっています。これまではステッチの始点から跳ね上がるように伸びていたのですが、このモデルでは左は横に平行気味にステッチが伸び、右は真ん中からやや高めにステッチが上がっていきます。左右の弧の幅はほぼ同じですが、角度は左右で異なるものになっています。
 写真では分かりにくいのですが、片面タブと同じく、アーキュエイトステッチの色はイエロー、ポケット周りのステッチはオレンジ。ピッチ幅は3.5mm程度ですが、縮み前のものなので、実際には片面タブと同じ幅だったと考えられるのではないかと思われます。

5 1960年代はじめ (ギャラ無紙パッチ)


  紙パッチから"Every Garment Guaranteed"の文字が無くなったいわゆるギャラ無紙パッチ期のもののバックポケットで、1960年台はじめ頃(遅くとも1960年代半ば)に製造されたものと推測されます。アーキュエイトステッチの深さや左右のバランスは、ギャラ入紙パッチ期のものとほとんど同じと言えるほど似ています。また、ステッチの色使いやピッチ幅も同じです。

6 1960年代終わり (BIG E)


 品番から"XX"が取れたBIG E期のもので、その中でもトップボタンの横が平行ステッチ・ウエストベルト上がチェーンステッチの1960年代終わりごろのもののバックポケット。持っているものの中でも一番クセの強いものの写真を載せています。
 XX期はアーキュエイトステッチの深さには違いがあるものの、左右の弧は対称のものが多かったのですが、BIG E期は左右の弧の幅や大きさが大きく異なる非対称のものが多いように思われます。
 この時期のBIG Eのものは、アーキュエイトステッチの色は写真のもののようにオレンジのものがほとんどでしょう。また、アーキュエイトステッチのピッチ幅は約2mmで、XX期と比べるとかなり細かなステッチになっています。

 長くなってしまったので今回はここまでとして、66モデル以降のものは次回に取り上げていきたいと思います。

 


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