2018年10月13日土曜日

501XX大戦モデルにはヘビーオンスの生地が使われているのか?(その1)

 ヴィンテージの501XXの中でも、第2次世界大戦中に生産された「大戦モデル」は、大変人気が高いものになっています。
 第2次世界大戦中、ジーンズに使われる部材も物資節約のため削減が求められ、リーバイスは、コインポケットのリベットやクロッチリベット(股リベット)の省略、シンチバックの廃止などに応じました。しかし、その一方で、これらの物資の削減と引換えに製品の丈夫さを担保するため、リーバイスはよりヘビーオンスの生地に変更したという説が言われることがあります。
 私もこの説は以前から知っていたので、初めて大戦モデルを手にしたときは、なんとなく厚手の生地が用いられているような感覚を持っていたのですが、時が経つにつれ「あまり変わらないな」という印象が強くなってきました。
 そんなところに、2018年3月に発行された青田充弘氏の「501XXは誰が作ったのか? 語られなかったリーバイス・ヒストリー」(立東舎)でも同様の疑念が呈されているのを見ました。これを読んで「大戦モデルにはヘビーオンスの生地が使われている」という説に対する私の中の疑問は深まっていました。

 そこで、今回は、2回に分けて、「大戦モデルにはヘビーオンスの生地が使われている」という説について、生地の(1)重さと(2)厚さの点から、実際に検証をしていきたいと思います。

 大戦モデルの前後では、リーバイスは501XXに10オンス(縮率10%として縮み後で約11.2オンス)の生地を用いており、このことは、当時のギャランティーチケットや販促用のカタログの記述から疑いのないものになっています。他方で、「大戦モデルにはヘビーオンスの生地が使われている」という説では、大戦モデルでは12オンス(縮率10%として縮み後で13.5オンス)の生地が使われていたといわれることが多いようです。これが本当だとすれば、ジーンズも約20%重く、そして厚いという有意な差が出てくることになるはずです。
 私の持っているジーンズのサイズに差がありますので正確な比較ができるわけではありませんが、生地の重さで20%の違いがあるとすれば、サイズの違いがあったとしても、相当な重量差が出てくるはずです。

 1 検証するジーンズのサイズと状態

今回検証対象にするのは、501XX、503BXX、504ZXXの(1)1922年モデル(後期型)(2)1937年モデル(3)大戦モデル(1本目)(4) 大戦モデル(2本目)(5)片面ダブモデル(初期型)(6)片面タブモデル(後期型)(7)ギャラ無紙パッチモデルの7本になります。大戦モデルはデッドストックの物を持っていないため、比較対象はすべてユースドのものにしています。デッドストックにすれば、計測対象となるジーンズの状態がすべて同じという点は良いのですが、糊の量によって重さ・厚さに誤差がでるという欠点もあるので、計測対象をデッドストックにするかユースドにするかは一長一短かと思います。

 検証するジーンズのサイズを表にまとめると次のとおりになります。
モデルウエストレングス
(1)503BXX 1922年モデル後期型71cm73cm
(2)503BXX 1937年モデル68cm70cm
(3)501XX(503BXX?) 大戦モデル(その1)68cm69cm
(4)501XX(503BXX?) 大戦モデル(その2)73cm84.5cm
(5)503BXX 片面タブモデル(初期型)69cm80cm
(6)503BXX 片面タブモデル(後期型)66cm78cm
(7)504ZXX(ギャラ無紙パッチ)68cm71cm

 また、状態ですが、(6)片面タブは色が強く残っている(=生地の摩耗がまだ少ない)一方で、(2)1937年モデルは状態が悪く10%程度の色残りです。他は約30~60%程度の色残りと言えるかと思います。色残り(=生地の摩耗の度合い)も重さや厚さには影響することは付言しておきます。

2 重さの計測

(1)大戦モデルの測定

大戦モデルとそれ以外を比較する前に、(3)と(4)の大戦モデルの重量を測っておきたいと思います。

(3)大戦モデル(その1)


(4)大戦モデル(その2)

  (3)と(4)ではウエストで5cm(約7%)、レングスで11.5cm(約22%)の差がありますので、重量にも相当の差が出ると思われるところ、(3)は603g、(4)は675g、約12%の差となりました。脚よりも胴の部分の方がより生地を多く使っていることからすれば、レングスで約22%の差が重量だと約12%になっているということからして、(3)と(4)の2本の大戦モデルの間では、生地の重さには差はないと考えられます。

(2)戦前のモデルの測定

(1)1922年モデル(後期型)、(2)1937年モデルは、いずれも小さめのサイズなので、(3)の大戦モデルと比較してみることにします。

 (1)1922年モデル(後期型)と(3)大戦モデルのサイズの差は、ウエストで約4%、レングスで約5.5%で、(1)の方が若干大きくなります。(3)の大戦モデルの方が生地の重さ(オンス)が20%重いとすれば、理論的にはサイズの差を考慮しても20%近く重くなるはずです。
(1)1922年モデル
そこで、(1)を測ってみると618gと、(3)の大戦モデル(603g)とほぼ同じ(むしろ1922年モデルが2%重い)という結果が出てしまいました。サイズの差のほかバックルの有無という細かい要素を考慮したとしても、重さの点で両者の生地の間にはほとんど差がないと考えたほうが自然ではないかと思います。

 次の(2)の1937年モデルですが、(3)の大戦モデルと比べるとウエスト・レングスともサイズはほぼ同じと言っていいと思います。
 
(2)1937年モデル
  そこで(2)を測ったところ、重さは656gとなってしまい、(3)の大戦モデル(603g)よりも約9%重いという結果が出てしまいました。(2)はバックシンチが残っているほかリペアが施されている箇所が多くリペアの部材が影響していたかもしれませんが、少なくとも大戦モデルの方が高オンス(=より重い)生地が使われているという説からはかなり遠い結果になってしまったように思います。

(3)戦後のモデルの測定

次に、戦後のモデルを測定して、大戦モデルと比較したいと思います。

 (5)は戦後の比較的早い時期のものと思われる片面タブモデルで、レングスなどが長めであることから、(4)の大戦モデルと比較していきます。
 (5)と(4)のサイズの差はウエスト・レングスいずれも約5.5%程度(4)の大戦モデルの方が大きくなります。生地で20%の重さがあるとすれば20%以上の重さの差が出てくることになります。
(5)片面タブモデル(初期型)
  測定結果は640gで、(4)の大戦モデル(675g)と比べる約5.5%の差となり、ほぼサイズ差に一致する結果となりました。やはり、生地の重さに大きな違いがあるとは到底考えにくい結果です。

 (6)は、1950年台に入ってからと思われる片面タブモデルで、(4)の大戦モデルと比べると、ウエストで約10.5%、レングスで約8.5%の差があり、重さでは20%強の差が出ても良いはずです。
(6)片面タブモデル(後期型)
  重さは629gで、(4)の大戦モデルとの差は約7.5%と、やはりサイズの差程度の重量差しかありませんでした。片面タブの後期型と比べても、大戦モデルの生地が重いという結果は見えてきません。

 しつこいようですが、念のため1960年代に入ってからのギャラ無し紙バッチのものとも比べています。
(7)ギャラ無し紙パッチ
  サイズが(3)の大戦モデルとほぼ同じなので(3)と比べてみると、(7)は613g、(3)は603gと1%強の重量差しか出てきませんでした。

 次の表は、以上の測定結果をまとめたものです。


モデル重さウエストレングス
(1)503BXX 1922年モデル後期型618g71cm73cm
(2)503BXX 1937年モデル656g68cm70cm
(3)501XX(503BXX?) 大戦モデル(その1)603g68cm69cm
(4)501XX(503BXX?) 大戦モデル(その2)675g73cm84.5cm
(5)503BXX 片面タブモデル(初期型)640g69cm80cm
(6)503BXX 片面タブモデル(後期型)629g66cm78cm
(7)504ZXX(ギャラ無紙パッチ)613g68cm71cm

  デニムにおけるオンスすなわち1ヤード辺りの重さ(オンス)ということで重さを測ってみたのですが、ジーンズの状態の違いなどを考慮したとしても、「大戦モデルは他の時代のものに比べてヘビーオンスの生地が使われている」という説からはかなり遠い結果が出てしまったように思います(正直に言ってここまではっきりとした結果が出るとは意外でした。)。

 ただ、重さは同じでも厚さの感じ方は、結構異なってくるものです。次回は、大戦モデルと他の時代で生地の厚さに違いがあるのか、見ていきたいと思います。

0 件のコメント:

コメントを投稿

注: コメントを投稿できるのは、このブログのメンバーだけです。