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2022年4月3日日曜日

ヴィンテージリーバイスの生地のオンスの変遷

1 はじめに

 リーバイス501の生地のオンス数(重さ≒厚さ)については、1930年代前の"FOR OVER 50 YEARS"のギャランティーチケットまでは9オンス、1930年以後の"FOR OVER 60 YEARS"のギャランティーチケットからは10オンスと、それぞれギャランティーチケットに明記されており、片面タブ期の"FOR OVER 80 YEARS"のギャランティーチケットまでは10オンスの記載が続きました。その後の"FOR OVER 85 YEARS"のギャランティーチケットからは10オンスの記載がなくなりましたが、しばらくの間は生地のオンス数に変更はなく10オンスの生地が用いられ、後にオンス数の引上げが行われた、というのが一般的な理解ではないかと思われます。例えば、1960年代前半のものと思われるプリシュランクの生地のLEVI'S 554ZXXでは、フラッシャーに14オンスと明記されています。仮にこれが縮む生地で、縮率が10%とすると縮み前のオンスは11.34オンスと計算され、生地のオンス数は10オンスから引き上げられていることになります。

 ただ、「いつごろから」「どの程度まで」生地が重くなった・厚くなったということは、はっきりと語られることは少ないように思います。

 そこで、今回は、同じサイズのデッドストックを計測・比較して、リーバイス501の生地のオンスがいつ頃から変化しているのか、調べていきたいと思います。


2 対象とするジーンズ

 今回は、ウエスト27インチ・レングス34インチのもの6本と、ウエスト27インチ・レングス32インチのもの6本の計12本の重さと厚さを計測します。具体的には、以下のとおりで、古いと考えられるものから並べています。番号の後に★が付いているものはレングス34インチ、☆が付いているものはレングス32インチです。おおよそ1950年代前中期から1980年代前半までの30年間の生地を比較することになります。一部フラッシャーやギャランティーチケットが欠品しているものがありますが、微小な差かと思われるため、ここではその差は無視することにします。


(1) 革パッチの504ZXX(サイドステッチが長い)★
(2) 革パッチの504ZXX(サイドステッチが短い)★
(3) ギャラ入り紙パッチの504ZXX(オイルドクロスのギャランティーチケット)★
(4) ギャラ入り紙パッチの504ZXX(紙のギャランティーチケット)☆
(7) 501 BIG E ウエストチェーン(タイプもの)☆
(8) 501 BIG E ウエストチェーン(大文字 501)☆
(10) 501 66後期★ ※ホームページ未公開
(11) 501 クロカン(1982年2月製)★
(12) 501 クロカン(1982年11月製)★

レングス34インチの6本

レングス32インチの6本

 レングス34インチ・32インチの各6本をそれぞれ並べてみましたが、レングスのサイズの個体差は、さほど感じられないのがお分かりいただけると思います。


3 重さの計測

 それでは、実際に12本のジーンズの重さを計測していきます。まず、レングス34インチのもの(上掲の★印)の6本から。


(1) 革パッチの504ZXX 704g

(2) 革パッチの504ZXX 671g

(3) ギャラ入り紙パッチの504ZXX 677g

(10) 501 66後期 655g

(11) 501 クロカン 658g

(12) 501 クロカン 666g

 次に、レングス32インチのもの(上掲の☆印)の6本を。


(9) 501 66前期 636g


 以上の結果をまとめると次のようになります。


27/34  27/32
(1) 革パッチの504ZXX  704g
(2) 革パッチの504ZXX  671g
(3) ギャラ入り紙パッチの504ZXX  677g
(4) ギャラ入り紙パッチの504ZXX   652g
(5) ギャラ無し紙パッチの503BXX   632g
(6) 501 BIG E ウエストシングル     619g
(7) 501 BIG E ウエストチェーン   649g
(8) 501 BIG E ウエストチェーン      635g
(9) 501 66前期   636g
(10) 501 66後期  655g
(11) 501 クロカン  658g
(12) 501 クロカン  666g

 レングス34のものと32のものは、同じ尺度で比較したいところです。そこで、同じギャラ入り紙パッチの504ZXXである(3)と(4)は同じ時代の生地が用いられていると仮定してこれらを100とし、レングス34インチのものは(3)と、レングス32のものは(4)と対比して数値化してみます。その結果は、次のようになります。

(1) 革パッチの504ZXX       104.0
(2) 革パッチの504ZXX        99.1
(3) ギャラ入り紙パッチの504ZXX   100
(4) ギャラ入り紙パッチの504ZXX   100
(5) ギャラ無し紙パッチの503BXX   96.9
(6) 501 BIG E ウエストシングル   94.9
(7) 501 BIG E ウエストチェーン   99.5
(8) 501 BIG E ウエストチェーン   97.4
(9) 501 66前期           97.5
(10) 501 66後期           96.8
(11) 501 クロカン           97.2
(12) 501 クロカン           98.4

 以上を見てみると、重さについては、生地のオンス数が上がり重くなったという傾向は見られません。むしろ、全体としては、古い時代のものの方がやや重い傾向にあります。これは、古いものの方が太めのシルエットであるため使用している生地が多いと理解が適当かと思います。


4 厚さの計測

 次に厚さの計測をしていきます。計測は、以前に大戦モデルの厚さを計測したときと同様に、電子ノギスを使用してウエストベルトの5ヶ所(左右前、左右横、真後ろ)を計測し、その平均値をとることにします。

                                                  右前    左前   右横    左横    後ろ  平均値
(1) 革パッチの504ZXX       1.14   1.03   1.01   1.04   1.03  1.05  
(2) 革パッチの504ZXX       1.04   1.02   0.99   1.10   1.02  1.034
(3) ギャラ入り紙パッチの504ZXX  0.95   1.03   1.06   0.96   1.01  1.002 
(4) ギャラ入り紙パッチの504ZXX  0.99   0.96   0.94   1.00   1.01  0.98   
(5) ギャラ無し紙パッチの503BXX  1.04   1.05   1.03   0.96   1.00  1.016  
(6) 501 BIG E ウエストシングル    1.07   0.99   1.08   0.99   1.01  1.028 
(7) 501 BIG E ウエストチェーン    1.01   0.97   1.02   1.09   1.01  1.02
(8) 501 BIG E ウエストチェーン    0.98   0.96   1.04   1.03   1.00  1.002
(9) 501 66前期            0.99   0.92   0.90   0.89   0.94  0.928
(10) 501 66後期          0.91   0.95   0.95   0.90   0.87  0.916
(11) 501 クロカン          0.91   0.96   0.92   0.91   0.96  0.932
(12) 501 クロカン          0.95   0.93   0.95   0.98   0.91  0.944
                                  (単位mm)

 平均値を見ると、最大で0.916~1.05、約10%の差が見られますが、年代が進むに連れて厚くなるのではなく、(9)の66前期以降は1mmを超えるものがなくなるなど、むしろ薄くなっていく傾向が見られます。年代が進むに連れて、糸や織りのムラが小さくなったことが影響しているのかもしれません。


5 まとめ

 重さと厚さの両面から検証していきましたが、1950年代前中期から1980年代前半までの30年間では、XXからBIG Eの移行期も、リング糸から空紡糸に変わった時期も、革新織機に変わり生地の耳がなくなった時期も、少なくとも生地の重さ・厚さに関する仕様は変わっていないと考えられます(年代が立つに連れ、重さも厚さも数字が小さくなるのは、前述のとおり、製品のシルエットの変更や生地の均質化が影響していると思われます。)。

 以前ブロクでとりあげた大戦モデルの生地の比較については、元々、世間で言われる「大戦モデル=ヘビーオンス」という見方に否定的でしたので、予想どおりの(あるいは予想以上の)結果が出たという感想でした。しかし、今回は、前述のとおりプリシュランク生地の製品のフラッシャーに"14oz"と明記されていることもあり、501の生地も1960年代辺りから変化が出てくるだろうと予想していたので、今回の結果は個人的には意外でした。

 今回の結果との整合的に理解しようとすると、そもそもオンス数の表記がいい加減なものだったか、オンスという単位そのものに何らかの変更があったとしか考えられないのですが、どちらもそれを証明するような証拠を見つけているわけではありません。

 ただ、いずれにしろ生地自体の重さ・厚さは変わっていなことは間違いありません。XXの生地は薄くてペラペラしているといったことが言われることもありますが、数字で見る限りはそんな事は言えず、最初に述べたような一般的な理解からくるバイアスがかかったものと言えるでしょう。何事にも検証が必要ということを改めて実感しました。

2018年10月13日土曜日

501XX大戦モデルにはヘビーオンスの生地が使われているのか?(その1)

 ヴィンテージの501XXの中でも、第2次世界大戦中に生産された「大戦モデル」は、大変人気が高いものになっています。
 第2次世界大戦中、ジーンズに使われる部材も物資節約のため削減が求められ、リーバイスは、コインポケットのリベットやクロッチリベット(股リベット)の省略、シンチバックの廃止などに応じました。しかし、その一方で、これらの物資の削減と引換えに製品の丈夫さを担保するため、リーバイスはよりヘビーオンスの生地に変更したという説が言われることがあります。
 私もこの説は以前から知っていたので、初めて大戦モデルを手にしたときは、なんとなく厚手の生地が用いられているような感覚を持っていたのですが、時が経つにつれ「あまり変わらないな」という印象が強くなってきました。
 そんなところに、2018年3月に発行された青田充弘氏の「501XXは誰が作ったのか? 語られなかったリーバイス・ヒストリー」(立東舎)でも同様の疑念が呈されているのを見ました。これを読んで「大戦モデルにはヘビーオンスの生地が使われている」という説に対する私の中の疑問は深まっていました。

 そこで、今回は、2回に分けて、「大戦モデルにはヘビーオンスの生地が使われている」という説について、生地の(1)重さと(2)厚さの点から、実際に検証をしていきたいと思います。

 大戦モデルの前後では、リーバイスは501XXに10オンス(縮率10%として縮み後で約11.2オンス)の生地を用いており、このことは、当時のギャランティーチケットや販促用のカタログの記述から疑いのないものになっています。他方で、「大戦モデルにはヘビーオンスの生地が使われている」という説では、大戦モデルでは12オンス(縮率10%として縮み後で13.5オンス)の生地が使われていたといわれることが多いようです。これが本当だとすれば、ジーンズも約20%重く、そして厚いという有意な差が出てくることになるはずです。
 私の持っているジーンズのサイズに差がありますので正確な比較ができるわけではありませんが、生地の重さで20%の違いがあるとすれば、サイズの違いがあったとしても、相当な重量差が出てくるはずです。

 1 検証するジーンズのサイズと状態

今回検証対象にするのは、501XX、503BXX、504ZXXの(1)1922年モデル(後期型)(2)1937年モデル(3)大戦モデル(1本目)(4) 大戦モデル(2本目)(5)片面ダブモデル(初期型)(6)片面タブモデル(後期型)(7)ギャラ無紙パッチモデルの7本になります。大戦モデルはデッドストックの物を持っていないため、比較対象はすべてユースドのものにしています。デッドストックにすれば、計測対象となるジーンズの状態がすべて同じという点は良いのですが、糊の量によって重さ・厚さに誤差がでるという欠点もあるので、計測対象をデッドストックにするかユースドにするかは一長一短かと思います。

 検証するジーンズのサイズを表にまとめると次のとおりになります。
モデルウエストレングス
(1)503BXX 1922年モデル後期型71cm73cm
(2)503BXX 1937年モデル68cm70cm
(3)501XX(503BXX?) 大戦モデル(その1)68cm69cm
(4)501XX(503BXX?) 大戦モデル(その2)73cm84.5cm
(5)503BXX 片面タブモデル(初期型)69cm80cm
(6)503BXX 片面タブモデル(後期型)66cm78cm
(7)504ZXX(ギャラ無紙パッチ)68cm71cm

 また、状態ですが、(6)片面タブは色が強く残っている(=生地の摩耗がまだ少ない)一方で、(2)1937年モデルは状態が悪く10%程度の色残りです。他は約30~60%程度の色残りと言えるかと思います。色残り(=生地の摩耗の度合い)も重さや厚さには影響することは付言しておきます。

2 重さの計測

(1)大戦モデルの測定

大戦モデルとそれ以外を比較する前に、(3)と(4)の大戦モデルの重量を測っておきたいと思います。

(3)大戦モデル(その1)


(4)大戦モデル(その2)

  (3)と(4)ではウエストで5cm(約7%)、レングスで11.5cm(約22%)の差がありますので、重量にも相当の差が出ると思われるところ、(3)は603g、(4)は675g、約12%の差となりました。脚よりも胴の部分の方がより生地を多く使っていることからすれば、レングスで約22%の差が重量だと約12%になっているということからして、(3)と(4)の2本の大戦モデルの間では、生地の重さには差はないと考えられます。

(2)戦前のモデルの測定

(1)1922年モデル(後期型)、(2)1937年モデルは、いずれも小さめのサイズなので、(3)の大戦モデルと比較してみることにします。

 (1)1922年モデル(後期型)と(3)大戦モデルのサイズの差は、ウエストで約4%、レングスで約5.5%で、(1)の方が若干大きくなります。(3)の大戦モデルの方が生地の重さ(オンス)が20%重いとすれば、理論的にはサイズの差を考慮しても20%近く重くなるはずです。
(1)1922年モデル
そこで、(1)を測ってみると618gと、(3)の大戦モデル(603g)とほぼ同じ(むしろ1922年モデルが2%重い)という結果が出てしまいました。サイズの差のほかバックルの有無という細かい要素を考慮したとしても、重さの点で両者の生地の間にはほとんど差がないと考えたほうが自然ではないかと思います。

 次の(2)の1937年モデルですが、(3)の大戦モデルと比べるとウエスト・レングスともサイズはほぼ同じと言っていいと思います。
 
(2)1937年モデル
  そこで(2)を測ったところ、重さは656gとなってしまい、(3)の大戦モデル(603g)よりも約9%重いという結果が出てしまいました。(2)はバックシンチが残っているほかリペアが施されている箇所が多くリペアの部材が影響していたかもしれませんが、少なくとも大戦モデルの方が高オンス(=より重い)生地が使われているという説からはかなり遠い結果になってしまったように思います。

(3)戦後のモデルの測定

次に、戦後のモデルを測定して、大戦モデルと比較したいと思います。

 (5)は戦後の比較的早い時期のものと思われる片面タブモデルで、レングスなどが長めであることから、(4)の大戦モデルと比較していきます。
 (5)と(4)のサイズの差はウエスト・レングスいずれも約5.5%程度(4)の大戦モデルの方が大きくなります。生地で20%の重さがあるとすれば20%以上の重さの差が出てくることになります。
(5)片面タブモデル(初期型)
  測定結果は640gで、(4)の大戦モデル(675g)と比べる約5.5%の差となり、ほぼサイズ差に一致する結果となりました。やはり、生地の重さに大きな違いがあるとは到底考えにくい結果です。

 (6)は、1950年台に入ってからと思われる片面タブモデルで、(4)の大戦モデルと比べると、ウエストで約10.5%、レングスで約8.5%の差があり、重さでは20%強の差が出ても良いはずです。
(6)片面タブモデル(後期型)
  重さは629gで、(4)の大戦モデルとの差は約7.5%と、やはりサイズの差程度の重量差しかありませんでした。片面タブの後期型と比べても、大戦モデルの生地が重いという結果は見えてきません。

 しつこいようですが、念のため1960年代に入ってからのギャラ無し紙バッチのものとも比べています。
(7)ギャラ無し紙パッチ
  サイズが(3)の大戦モデルとほぼ同じなので(3)と比べてみると、(7)は613g、(3)は603gと1%強の重量差しか出てきませんでした。

 次の表は、以上の測定結果をまとめたものです。


モデル重さウエストレングス
(1)503BXX 1922年モデル後期型618g71cm73cm
(2)503BXX 1937年モデル656g68cm70cm
(3)501XX(503BXX?) 大戦モデル(その1)603g68cm69cm
(4)501XX(503BXX?) 大戦モデル(その2)675g73cm84.5cm
(5)503BXX 片面タブモデル(初期型)640g69cm80cm
(6)503BXX 片面タブモデル(後期型)629g66cm78cm
(7)504ZXX(ギャラ無紙パッチ)613g68cm71cm

  デニムにおけるオンスすなわち1ヤード辺りの重さ(オンス)ということで重さを測ってみたのですが、ジーンズの状態の違いなどを考慮したとしても、「大戦モデルは他の時代のものに比べてヘビーオンスの生地が使われている」という説からはかなり遠い結果が出てしまったように思います(正直に言ってここまではっきりとした結果が出るとは意外でした。)。

 ただ、重さは同じでも厚さの感じ方は、結構異なってくるものです。次回は、大戦モデルと他の時代で生地の厚さに違いがあるのか、見ていきたいと思います。

2018年9月22日土曜日

リーバイス ーアーキュエイトステッチの変遷ー(その1)

 リーバイスのジーンズのシンボルともいえるのがアーキュエイトステッチ。"arcuate"は、「弓形の」とか「弧状の」という意味で、ヒップポケットに2つの弧を描く形でステッチが入れられています。元々はヒップポケットの裏に補強布を縫い合わせるものだったそうなのですが、補強が行われなくなった後も、リーバイスのジーンズにアーキュエイトステッチが入れ続けられています。法的にも商標登録されており、リーバイス社のみが製造したジーンズにアーキュエイトステッチを入れることが認められます。
 このアーキュエイトステッチ、弧型のアーチの形は一様ではなく、個体差があるのはもちろんなのですが、時代ごとで大きな傾向を見ることができます。

1 1930年代半ば (1922年モデル)

  1922年モデルのバックポケットですが、ディテールからして1930年代半ば(早くても1930年台はじめ)に製造されたものではないかと推測されるものです。写真のものは、アーキュエイトステッチは摩耗してほぼ消えてしまっているのですが、その跡は確認することができます。
 当時はアーキュエイトステッチも1本針のミシンで縫われていたと言われており、2本線の間隔は均等ではありません。また、この縫い子さんのやり方なのか、上の線と下の線が一気に縫われていたようで、右端が一点になっています。上ないし下から縫って右端に行ったら布を上下逆さにして...と縫われたのでしょう。
 また、アーキュエイトの左右と真ん中の高さがほぼ一緒になっており、左はかなり下の位置から縫いが始まり、大きく上下して真ん中に、また大きく上下して右に...となっており、角度の深い弧が描かれています。左右の弧のバランスはほぼ均等といってよいかと思います。
 ステッチの色はイエローステッチ、ポケット周りもすべてイエローステッチで縫われています。

2 1930年代終わり (1937年モデル)

次は、1937年モデルのバックポケットです。状態がとても悪く、アーキュエイトステッチが消滅している上に右半分は跡も分からなくなっているのですが、一応、取り上げておきます。
 この頃も一本針のミシンで縫われていたとされており、アーキュエイトステッチの真ん中部分で縫い目がクロスしていないとされていますが、残念ながら私の手持ちのものでは分からなくなっています。
  1922年モデルではポケットの下の方から跳ね上がるように描かれていたのですが、1937年モデルでは、左はポケットの真ん中よりやや高めの位置から真ん中に落ちていくような形になっています。また、一本針のミシンで縫われていたにもかかわらず、2本線の間隔が均等に近くなっています。左右の弧のバランスもほぼ均等です。
 1922年モデルと同じく、アーキュエイトステッチも含めてポケットはすべてイエローステッチで縫われています。

3 1950年代はじめ (片面タブ)

  第2次世界大戦期間中のいわゆる大戦モデルではアーキュエイトステッチがペンキステッチ(正確にはペンキではなくスクリーンプリントだったようです)でしたので、戦後に入ってからのモデルを取り上げます。
 上の写真は、戦後に入ってから製造された片面タブ("LEVI'S"の文字が赤タブの片面にしか刺繍されていないモデル)のバックポケット。戦後に入ってからは2本針のミシンにより縫われるようになったため、2本線の間隔は完全に均等になり、アーキュエイトステッチの真ん中ではステッチがクロスするようになります。
 弧の一番高いところと一番低いところのちょうど中間ぐらいのところにステッチの始点があり、やや深めに弧が落ちています。左右の弧の大きさは、ほぼ同じぐらいになっています。
 アーキュエイトステッチはイエロー、ポケット周りはオレンジステッチで、アーキュエイトステッチのピッチ幅は、3mm程度になっています。

4 1950年代後半 (ギャラ入紙パッチ)

  次は、紙パッチに移行直後の"Every Garment Guaranteed"の文字が入ったギャラ入紙パッチ期のもののバックポケット。片面タブモデルのものと比べると、アーキュエイトステッチの弧がやや浅くなっています。これまではステッチの始点から跳ね上がるように伸びていたのですが、このモデルでは左は横に平行気味にステッチが伸び、右は真ん中からやや高めにステッチが上がっていきます。左右の弧の幅はほぼ同じですが、角度は左右で異なるものになっています。
 写真では分かりにくいのですが、片面タブと同じく、アーキュエイトステッチの色はイエロー、ポケット周りのステッチはオレンジ。ピッチ幅は3.5mm程度ですが、縮み前のものなので、実際には片面タブと同じ幅だったと考えられるのではないかと思われます。

5 1960年代はじめ (ギャラ無紙パッチ)


  紙パッチから"Every Garment Guaranteed"の文字が無くなったいわゆるギャラ無紙パッチ期のもののバックポケットで、1960年台はじめ頃(遅くとも1960年代半ば)に製造されたものと推測されます。アーキュエイトステッチの深さや左右のバランスは、ギャラ入紙パッチ期のものとほとんど同じと言えるほど似ています。また、ステッチの色使いやピッチ幅も同じです。

6 1960年代終わり (BIG E)


 品番から"XX"が取れたBIG E期のもので、その中でもトップボタンの横が平行ステッチ・ウエストベルト上がチェーンステッチの1960年代終わりごろのもののバックポケット。持っているものの中でも一番クセの強いものの写真を載せています。
 XX期はアーキュエイトステッチの深さには違いがあるものの、左右の弧は対称のものが多かったのですが、BIG E期は左右の弧の幅や大きさが大きく異なる非対称のものが多いように思われます。
 この時期のBIG Eのものは、アーキュエイトステッチの色は写真のもののようにオレンジのものがほとんどでしょう。また、アーキュエイトステッチのピッチ幅は約2mmで、XX期と比べるとかなり細かなステッチになっています。

 長くなってしまったので今回はここまでとして、66モデル以降のものは次回に取り上げていきたいと思います。

 


2018年9月8日土曜日

リーバイス ーヴィンテージから現在のものまでの色の変遷ー(その2)

 前回は、革パッチ期からごく最近のものまでの11本のリーバイスの生地の色の変遷をざっくりと見ていきましたが、今回からは2回に分けて、革パッチ期のものを基準としながら11本をもう少し丁寧に見ていきたいと思います。
革パッチ期からの11本のリーバイス501
条件を同じにするためスキャナで撮った生地の画像
色落ちという点では、革パッチ期のXXからBIG E期まででは色落ちの傾向はかなり異なりますが、デッドストックの状態で見る色については、前回も書いたとおりあまり大きな違いは見られませんでした。もちろん若干の差はあるのですが、これが生地の色の全体的な傾向として言えることなのか、個体差の問題に留まるのかは分かりません。

1 革パッチ期のXXとギャラ入紙パッチ期のXX

左が革パッチの504ZXX、右がギャラ入紙パッチの504ZXX

 一般的には革パッチのものの方が古いとされているのですが、フラッシャーやギャランティーチケットはギャラ入り紙パッチに付いているものの方が古いため、実は、この2本のうちどらちが先に製造されたのか判然としないところがあります。
 この2本で比較すると、革パッチの方は黒みががっているように見えるほどインディゴの深みが強くなっていますが、これと比べてギャラ入紙パッチの方はほんの少し色の深さが弱く青みが強くなったように感じられます。また、経年変化の違いの可能性が高いですが、ギャラ入紙パッチの方はほんの少し色が褪せて色のコントラストが弱くなっているように見えます。

2 ギャラ無紙パッチ期のXX

左が革パッチの504ZXX、右がギャラ無紙パッチの503BXX

 ギャラ無紙パッチのものは、革パッチのものと比べると、やや青みが強くなるとともに、赤みが出ているのかやや紫に寄った青さになっています。また、色のコントラストが強く、深さがありながらも鮮やさを感じます。色の深さだけで見るならばギャラ入紙パッチのものよりも色が深く、革パッチのものに近いように見えます。

3 BIG E

左が革パッチの504ZXX、右がBIG E
今回比較に用いたのは、BIG Eの中でもタイプもの(パッチの"501"の上に"A","S"などのアルファベットの表記がある)と呼ばれているものです。ヴィンテージデニムの市場ではXXとBIG Eでは価値が大きく異なり、特にギャラ入りまでのXXとBIG Eを比べると実際の色落ちの傾向も異なると言われますが、デッドストックでの色味に限って言えはあまり変わらないように見えます。
 あえて言うならば、革パッチのXXの方が色が深く鮮やかで、BIG Eはやや乾いた色合いなのですが、やはり個体差の問題とも考えられる程度の違いです。もう少し違いが出るのではないかと予想していたので、正直に言って意外な結果でした。

4 66前期

左が革パッチの504ZXX、右が66前期
66前期は、これまでとりあげてきたものとガラリと印象が変わります。上の写真でもはっきりと分かりますが、これまでの深いインディゴではなく、鮮やかな青という印象です。なお、ここで紹介する66前期は、1976年4月製のものです。
 硫化染料による下染めが導入された明確な時期について明確には分かりませんが、リーバイスの復刻版(LEVI'S VINTAGE CLOTHING(LVC))の501の1976年モデル、1978年モデル(本稿執筆時点で既に廃番)に付いている製品紹介の手紙風パンフレットにはいずれも"
The fabric was a bright shade of sulfur-dyed indigo"と記載されており、公式には、少なくとも1976年時点で硫化染料で下染めしたデニムが用いられていたという立場をとっているようです(※)。
※ 他方で、2013年春夏に発行されたINVESTORY誌4巻8号掲載のコーンミルズ社の特集記事"CONE MILLS: THE HOME OF AMERICAN DENIM"では、"a 1978 denim -- complete with a sulphur bottom for quicker fading"という記述があります。
 一般に硫化染料を用いたサルファー染は褪せた色合いが特徴なのでここまで鮮やかな青になるのかは分からないのですが、硫化染料による下染が1976年に既に取り入れられており、これにより生地の色の変化がもたらされた可能性もあるのかと思います。


 少し長くなってしまったので今回はここまでとし、次回は赤耳モデル以降の生地を見ていきたいと思います。