2018年10月20日土曜日

501XX大戦モデルにはヘビーオンスの生地が使われているのか?(その2)

 前回は、「大戦モデルにはヘビーオンスの生地が使われている」という説について、生地の重さの観点から検証したところ、実際には、この説が疑わしいと思えるような結果が出てしまいました。
 そこで、今回は、生地の厚さから検証を行っていきたいと思います。生地のオンスは、1平方ヤード辺りの"重さ"ですので必ずしも厚さに比例するものでないことは前置きしておきます。

3 厚さの計測

生地の厚さといっても、実際にはごく薄いものですので、普通に定規で測れるものではありません。そこで、今回は「デジタルノギス」なるものを使って計測していきます。これを用いると、薄いものでも0.01mm単位まで計測することができるため、薄い生地の厚さも測ることができます。

デジタルノギス
普通のノギスと同じように先端で挟んで計測します。


 計測は、ウエストベルトの5ヶ所(左右前、左右横、真後ろ)を計測し、その平均値をとることにします。ウエストベルトの端は、生地が二つ折りになっているので、実際の生地の厚さは計測値の半分ということになります。なお、ウエストベルトの上端にはステッチがかけられていますが、厚さを測る際には、ステッチ分の厚さまで余分に計測されてしまうのでステッチを避けて縫い穴の上を計測するようにしました。逆に、生地が荒れている部分は、生地が本来の厚さから相当程度摩耗して薄くなってしまっているため計測箇所から外すようにしました。
 また、力の入れ具合で計測値がかなり変わってしまうため、一番低い(=薄い)数字が出るまでできるだけ力を入れて計測することにしました。計測値は、指で生地をギュッとつまんだ状態の値と考えていただければよいかと思います。
 その他、ノギスと生地との角度によってかなり計測値が変わるため、ノギスと生地が垂直に交わるよう心がけて計測しました。
 計測に用いたのは、重さの計測のときと同じく(1)1922年モデル(後期型)(2)1937年モデル(3)大戦モデル(1本目)(4) 大戦モデル(2本目)(5)片面ダブモデル(初期型)(6)片面タブモデル(後期型)(7)ギャラ無紙パッチモデルの7本のボトムズに加え、(8)506XX(1937年1stモデル)(9)506XX(大戦期1stモデル)(10)506XX(1947年1stモデル)(11)507XX(2ndモデル)の4着のジャケットも加えています。ジャケットもウエストベルト部分をジーンズと同様に計測しました。
 全部で11着のボトムズ、ジャケットを計測した結果は、以下のとおりです(単位はmm)。なお、前述のように二つ折りの部分を計測したため、実際の生地の厚さは理論上はこの半分ということになります。

モデル厚さ
(平均値)
左前左横真後ろ右横右前
(1)503BXX 1922年モデル後期型1.0060.9811.070.981
(2)503BXX 1937年モデル1.0721.121.051.081.071.04
(3)S501XX(S503BXX?) 大戦モデル(その1)1.0761.120.991.111.11.06
(4)S501XX(S503BXX?) 大戦モデル(その2)1.0941.121.031.111.081.13
(5)503BXX 片面タブモデル(初期型)1.0841.091.091.081.061.1
(6)503BXX 片面タブモデル(後期型)1.111.121.071.131.131.1
(7)504ZXX(ギャラ無紙パッチ)1.091.091.081.091.111.08







(8)506XX(1937年モデル)1.0841.071.031.11.081.14
(9)S506XX(大戦モデル)1.0521.061.031.041.071.06
(10)506XX(1947年モデル)1.0981.111.121.091.071.1
(11)507XX1.1321.081.161.121.141.16

-->  結果としては、(3)の大戦モデルが1.076mm、(4)の大戦モデルが1.094mm、(9)の大戦モデルが1.052mmですが、その前後の時代のものでも、1.006~1.132mmの範囲内に収まっています。「大戦モデルにはヘビーオンスの生地が使われている」という説では、大戦モデルには12オンスの生地(大戦期以外は10オンス)が用いられているとされることが多いので、この場合、生地の厚さも20%前後の差が出てもおかしくないと思いますが、実際には、(4)の大戦期とその前の(2)1937年モデルでも2%程度の差しか出ていませんし、ジャケットに至っては大戦期の生地が最も薄いという結果が出ています。生地の摩耗の度合はそれぞれ異なり、また、そもそも100分の1ミリ単位での計測ですので、計測誤差は相当に出ることは前提とする必要がありますが、「大戦モデルにはヘビーオンスの生地が使われている」という説を立証するような結果は、厚さを測っても出てきませんでした。上記の結果を見るに、計測誤差、元々の生地の厚さの微妙な個体差、生地の状態の差といった差が数字に出てきただけのようにも思われます。

4 まとめ

2回にわたって大戦モデルの生地を重さ・厚さという観点から検証して見ましたが、「大戦モデルにはヘビーオンスの生地が使われている」という結論からは遠い結果が出てしまったように思います。ただし、この検証も私の手持ちのジーンズ2本とジャケット1着で行っただけのものであることは留意していただきたいと思います。
 個人的には、この説に疑念を抱いていたので、ひと通り検証をしてみてスッキリした気分です。そもそもヘビーオンスであれば良いというものではないですし、大戦モデルの魅力は黒みがかかった色味や、味のある(=雑な)縫製、無骨なディテールなどにあると思いますので、この結果にガッカリすることなく、これからも大事に穿いていきたいと思います。

2018年10月13日土曜日

501XX大戦モデルにはヘビーオンスの生地が使われているのか?(その1)

 ヴィンテージの501XXの中でも、第2次世界大戦中に生産された「大戦モデル」は、大変人気が高いものになっています。
 第2次世界大戦中、ジーンズに使われる部材も物資節約のため削減が求められ、リーバイスは、コインポケットのリベットやクロッチリベット(股リベット)の省略、シンチバックの廃止などに応じました。しかし、その一方で、これらの物資の削減と引換えに製品の丈夫さを担保するため、リーバイスはよりヘビーオンスの生地に変更したという説が言われることがあります。
 私もこの説は以前から知っていたので、初めて大戦モデルを手にしたときは、なんとなく厚手の生地が用いられているような感覚を持っていたのですが、時が経つにつれ「あまり変わらないな」という印象が強くなってきました。
 そんなところに、2018年3月に発行された青田充弘氏の「501XXは誰が作ったのか? 語られなかったリーバイス・ヒストリー」(立東舎)でも同様の疑念が呈されているのを見ました。これを読んで「大戦モデルにはヘビーオンスの生地が使われている」という説に対する私の中の疑問は深まっていました。

 そこで、今回は、2回に分けて、「大戦モデルにはヘビーオンスの生地が使われている」という説について、生地の(1)重さと(2)厚さの点から、実際に検証をしていきたいと思います。

 大戦モデルの前後では、リーバイスは501XXに10オンス(縮率10%として縮み後で約11.2オンス)の生地を用いており、このことは、当時のギャランティーチケットや販促用のカタログの記述から疑いのないものになっています。他方で、「大戦モデルにはヘビーオンスの生地が使われている」という説では、大戦モデルでは12オンス(縮率10%として縮み後で13.5オンス)の生地が使われていたといわれることが多いようです。これが本当だとすれば、ジーンズも約20%重く、そして厚いという有意な差が出てくることになるはずです。
 私の持っているジーンズのサイズに差がありますので正確な比較ができるわけではありませんが、生地の重さで20%の違いがあるとすれば、サイズの違いがあったとしても、相当な重量差が出てくるはずです。

 1 検証するジーンズのサイズと状態

今回検証対象にするのは、501XX、503BXX、504ZXXの(1)1922年モデル(後期型)(2)1937年モデル(3)大戦モデル(1本目)(4) 大戦モデル(2本目)(5)片面ダブモデル(初期型)(6)片面タブモデル(後期型)(7)ギャラ無紙パッチモデルの7本になります。大戦モデルはデッドストックの物を持っていないため、比較対象はすべてユースドのものにしています。デッドストックにすれば、計測対象となるジーンズの状態がすべて同じという点は良いのですが、糊の量によって重さ・厚さに誤差がでるという欠点もあるので、計測対象をデッドストックにするかユースドにするかは一長一短かと思います。

 検証するジーンズのサイズを表にまとめると次のとおりになります。
モデルウエストレングス
(1)503BXX 1922年モデル後期型71cm73cm
(2)503BXX 1937年モデル68cm70cm
(3)501XX(503BXX?) 大戦モデル(その1)68cm69cm
(4)501XX(503BXX?) 大戦モデル(その2)73cm84.5cm
(5)503BXX 片面タブモデル(初期型)69cm80cm
(6)503BXX 片面タブモデル(後期型)66cm78cm
(7)504ZXX(ギャラ無紙パッチ)68cm71cm

 また、状態ですが、(6)片面タブは色が強く残っている(=生地の摩耗がまだ少ない)一方で、(2)1937年モデルは状態が悪く10%程度の色残りです。他は約30~60%程度の色残りと言えるかと思います。色残り(=生地の摩耗の度合い)も重さや厚さには影響することは付言しておきます。

2 重さの計測

(1)大戦モデルの測定

大戦モデルとそれ以外を比較する前に、(3)と(4)の大戦モデルの重量を測っておきたいと思います。

(3)大戦モデル(その1)


(4)大戦モデル(その2)

  (3)と(4)ではウエストで5cm(約7%)、レングスで11.5cm(約22%)の差がありますので、重量にも相当の差が出ると思われるところ、(3)は603g、(4)は675g、約12%の差となりました。脚よりも胴の部分の方がより生地を多く使っていることからすれば、レングスで約22%の差が重量だと約12%になっているということからして、(3)と(4)の2本の大戦モデルの間では、生地の重さには差はないと考えられます。

(2)戦前のモデルの測定

(1)1922年モデル(後期型)、(2)1937年モデルは、いずれも小さめのサイズなので、(3)の大戦モデルと比較してみることにします。

 (1)1922年モデル(後期型)と(3)大戦モデルのサイズの差は、ウエストで約4%、レングスで約5.5%で、(1)の方が若干大きくなります。(3)の大戦モデルの方が生地の重さ(オンス)が20%重いとすれば、理論的にはサイズの差を考慮しても20%近く重くなるはずです。
(1)1922年モデル
そこで、(1)を測ってみると618gと、(3)の大戦モデル(603g)とほぼ同じ(むしろ1922年モデルが2%重い)という結果が出てしまいました。サイズの差のほかバックルの有無という細かい要素を考慮したとしても、重さの点で両者の生地の間にはほとんど差がないと考えたほうが自然ではないかと思います。

 次の(2)の1937年モデルですが、(3)の大戦モデルと比べるとウエスト・レングスともサイズはほぼ同じと言っていいと思います。
 
(2)1937年モデル
  そこで(2)を測ったところ、重さは656gとなってしまい、(3)の大戦モデル(603g)よりも約9%重いという結果が出てしまいました。(2)はバックシンチが残っているほかリペアが施されている箇所が多くリペアの部材が影響していたかもしれませんが、少なくとも大戦モデルの方が高オンス(=より重い)生地が使われているという説からはかなり遠い結果になってしまったように思います。

(3)戦後のモデルの測定

次に、戦後のモデルを測定して、大戦モデルと比較したいと思います。

 (5)は戦後の比較的早い時期のものと思われる片面タブモデルで、レングスなどが長めであることから、(4)の大戦モデルと比較していきます。
 (5)と(4)のサイズの差はウエスト・レングスいずれも約5.5%程度(4)の大戦モデルの方が大きくなります。生地で20%の重さがあるとすれば20%以上の重さの差が出てくることになります。
(5)片面タブモデル(初期型)
  測定結果は640gで、(4)の大戦モデル(675g)と比べる約5.5%の差となり、ほぼサイズ差に一致する結果となりました。やはり、生地の重さに大きな違いがあるとは到底考えにくい結果です。

 (6)は、1950年台に入ってからと思われる片面タブモデルで、(4)の大戦モデルと比べると、ウエストで約10.5%、レングスで約8.5%の差があり、重さでは20%強の差が出ても良いはずです。
(6)片面タブモデル(後期型)
  重さは629gで、(4)の大戦モデルとの差は約7.5%と、やはりサイズの差程度の重量差しかありませんでした。片面タブの後期型と比べても、大戦モデルの生地が重いという結果は見えてきません。

 しつこいようですが、念のため1960年代に入ってからのギャラ無し紙バッチのものとも比べています。
(7)ギャラ無し紙パッチ
  サイズが(3)の大戦モデルとほぼ同じなので(3)と比べてみると、(7)は613g、(3)は603gと1%強の重量差しか出てきませんでした。

 次の表は、以上の測定結果をまとめたものです。


モデル重さウエストレングス
(1)503BXX 1922年モデル後期型618g71cm73cm
(2)503BXX 1937年モデル656g68cm70cm
(3)501XX(503BXX?) 大戦モデル(その1)603g68cm69cm
(4)501XX(503BXX?) 大戦モデル(その2)675g73cm84.5cm
(5)503BXX 片面タブモデル(初期型)640g69cm80cm
(6)503BXX 片面タブモデル(後期型)629g66cm78cm
(7)504ZXX(ギャラ無紙パッチ)613g68cm71cm

  デニムにおけるオンスすなわち1ヤード辺りの重さ(オンス)ということで重さを測ってみたのですが、ジーンズの状態の違いなどを考慮したとしても、「大戦モデルは他の時代のものに比べてヘビーオンスの生地が使われている」という説からはかなり遠い結果が出てしまったように思います(正直に言ってここまではっきりとした結果が出るとは意外でした。)。

 ただ、重さは同じでも厚さの感じ方は、結構異なってくるものです。次回は、大戦モデルと他の時代で生地の厚さに違いがあるのか、見ていきたいと思います。